モナコ王室やイギリス王室など、ヨーロッパ社交界でひっそりと愛されてきたシャンパーニュ「アンリ・ジロー」。
近年まで上流階級以外には長らくその存在を知られてこなかったメゾンで、知名度の低さと希少性の高さから、知る人ぞ知る「幻のシャンパーニュ」と呼ばれています。
創業が1700年代後半から1800年代前半に集中しているシャンパーニュメゾンにあって、1625年創業のアンリ・ジローは、400年近い歴史を持つ本当の老舗メゾン。
「ピノ・ノワールの聖地」と言われるアイ村にグラン・クリュ（特級畑）の自社畑を持っています。
今回のテーマは、そんな語るべきことの多いメゾン、アンリ・ジロー。
憧れのシャンパーニュ・メゾンがもう一つ増えること間違いなしの奥深い世界をご案内します。
※この記事は、ソムリエが監修を行っております。（最終更新日：2021/12/09）
モナコ王室・英国王室御用達
アンリ・ジローってどんなメゾン？
ここからは、アンリ・ジローというメゾンについてお話していきます。
アンリ・ジローは、モナコ王室や英国王室などを筆頭とするヨーロッパの社交界でひっそりと愛されてきたシャンパーニュです。
有名になりそうな御用達メゾンのシャンパーニュが「幻」と言われている理由、気になりますよね。
アンリ・ジローのシャンパーニュが幻と言われた理由。
アンリ・ジローのシャンパーニュは、モナコ王室や英国王室などの王室御用達分と一部の上流階級のみに販売されていて、一般の販売をしていませんでした。
そのため、2006年までは日本で目にすることすら難しい、非常に希少なシャンパーニュだったのです。
このように販売先が限られていた上、生産本数も年間約25万本と、非常に小規模。
（※「1秒に1本、世界のどこかで開けられている」と言われるシャンパーニュの巨人、モエ・エ・シャンドン社の年間生産本数が3000万本とも言われます。）
10以上のラインナップがあり、銘柄によっては生産数が年間1万本に満たないものもあり、この生産本数の少なさが、幻と言われるもう一つの理由です。
創業400年を控える老舗メゾン
アンリ・ジローの創業は、1625年。
創業者であるフランソワ・エマール氏が、アイ村のブドウ畑を手に入れたところから400年近い歴史がスタートします。
12代に渡り引き継がれてきた名門であり、近年まで販売先が限られていたためあまり知られていませんでしたが、今、その名はどんどんと知られるようになっています。
そのきっかけとなったのが1990年、現当主クロード・ジロー氏がリリースした「フュ・ド・シェーヌ」というシャンパーニュでした。
この、メゾンのフラッグシップとも言うべきシャンパーニュについて、最も影響力のあるワイン評論家と言われるロバート・パーカー氏は以下のようにコメントしたそうです。
「ほとんど人に知られることのないこのドメーヌは、最高のシャンパーニュメゾンだろう。このハウスのシャンパーニュは、むしろ蜂蜜味のあるブルゴーニュの白に近い。伝統のオーク樽で熟成されたプレステージクラスの『フュ・ド・シェーヌ』はクリュッグのような余韻を持ちながら酸化度が低く、強いボディを感じさせる。ノンヴィンテージ シャンパーニュの中でもアンリ・ジローは最高峰の一つといえる。」
そんなアンリ・ジローは、200年後、300年後にもワインを作り続けていられるようにと植樹にも取り組んでいます。
400年の歴史を持つメゾンらしい、長く先を見据えた取り組みだと思いませんか。
アンリ・ジローのシャンパーニュはどんな味わい？
アンリ・ジローのスタイルを象徴するのは「ピノ・ノワール」という黒ブドウです。
「ピノ・ノワール」は赤ワインに使用される品種ですが、シャンパーニュ造りに使われる3大品種の一つでもあります。
最もメジャーなシャルドネと比べると、その配合比率が少なめになることが多い品種でもあります。
アンリ・ジローでは、そんな「ピノ・ノワール」を主役にしてシャンパーニュを造っています。
繊細でエレガントな印象の中に、ピノ・ノワールの黒い果皮に由来するふくよかでボリューム感のある果実味と軽やかなタンニンが感じられます。
複雑な香りを生み出す｢アルゴンヌ」の樫樽を熟成に使用するため、シャンパーニュの味わいも複雑味のある奥深いものです。
シャンパーニュの味わいを決めるのは、使われるぶどうの個性と熟成の環境です。
ここで、アンリ・ジローのシャンパーニュの味わいの基となっている「アイ村」と「アルゴンヌの森」について少し詳しく見てみましょう。
ブドウは、ピノ・ノワールの聖地アイ村から
アンリ・ジローのシャンパーニュは、ピノ・ノワールの聖地と呼ばれ、シャンパーニュの名だたる一流メゾンが競って欲しがる土地でもある「アイ村」のぶどうを使って造られます。
アイ村に本拠地を置くメゾンは、Bollinger（ボランジェ）、GOSSET（ゴッセ）、Deutz（ドゥーツ）などなど名だたる有名メゾンばかり。
また、ドン・ペリニヨンで有名なMoet et Chandon（モエ・エ・シャンドン）もアイ村のぶどう畑を多く所有していることでも知られています。
アイ村は、ぶどう栽培の北限と言われるシャンパーニュ地方において、冷涼な気候で知られるヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区にあります。
南向きの斜面が広がり日照に恵まれたエリアにあるため、ぶどうはたくさんの陽を浴びて育ち、ふくよかで濃密な果実味が特徴です。
アンリ・ジローは、そんなアイ村に8ヘクタールの自社畑を持ち、ピノ・ノワールを70%、シャルドネを30%の比率で栽培しています。
アンリ・ジローを代表するラインナップは、ピノ・ノワールとシャルドネをブレンドして造るシャンパーニュです。
70%から90%もの比率でピノ・ノワールが使われており、アイ村のピノ・ノワールがアンリ・ジローのスタイルの象徴と言われる所以です。
樽は、世界最高峰の樽材を産するアルゴンヌの森から
樽材がシャンパーニュ造りにとって重要な理由は、木樽の個性がシャンパーニュの味わいに反映されるからです。
そして、木樽の個性は木材に、木材の個性はその木が育った環境に由来します。
だからこそ、アンリ・ジローでは木樽の材質だけでなく、その木が育った環境までも把握しているのです。
アンリ・ジローのシャンパーニュの熟成に使われるのは｢アルゴンヌ」の樫樽です。
「アルゴンヌの森」は、うねりのある特徴的な地形をしています。
そのため、区画によって日の入り方や水のたまり方、地質などが異なり、木樽となった時にワインに与える香りも違ってくるのだと言います。
アプリコットやミラベルプラムなどを想わせる香りが出る場合もあれば、ワインに力強さを加えるものもあるそうです。
シャンパーニュ造りの最高責任者であるセラーマスター自らがアルゴンヌの森へと赴き、樽作りに使う木を厳選。
1つの樽は1本の木から造られ、その樽に使われた樽材がアルゴンヌの森のどの区画の木なのかがわかるよう区画名の焼印が入れられます。
ぶどう果汁の個性に合わせてどの区画の樽を使うかを選び、樽に加えるトーストも微調整がなされています。
この徹底したこだわりは、ぶどうの個性と木樽の個性が響き合うようなシャンパーニュ造りに結実するのです。
洗練された味わいを惹き出すアンリ・ジローのシャンパーニュ造り
アンリ・ジローは、良いシャンパーニュ造りのためには手間を惜しまないシャンパーニュメゾン。
手のかかる伝統の製法を頑なに守りつつ、場合によっては最新の技術もしっかりと取り入れる革新的な面も持ち合わせています。
ぶどうはすべて手摘みで収穫しており、酸化を避けるためにすぐに醸造所で搾っています。
一方で、1990年からはいち早く「低温浸透法」を取り入れました。
低温浸透法とは、圧搾されプレス機から出てきた直後のぶどう果汁をゆっくりと10度まで冷やす工程のこと。
雑味成分をぶどう果汁から分離でき、衛生にも良いという特徴があります。
アンリ・ジローのラインナップ
さてここからは、アンリ・ジローのラインナップをご紹介していきます。
どんな素敵なエピソードを知っても、味わってみなければわからないことも多いものです。
でも、いざ飲んでみたいと思った時にラインナップを知らなければ、買えるかどうか、またどれを選べばいいかもわかりませんよね。
それぞれの特徴や味わいについても記載しているので、ぜひ参考にしてみてください。
Henri Giraud Esprit Nature NV
エスプリ・ナチュール NV
アンリジロー エスプリ・ナチュールの「ナチュール」とは、「ブリュット・ナチュール（ドサージュを行わない極辛口ワイン）」や「ヴァン・ナチュール（自然派ワイン）」といった意味でのナチュールではなく、「自然と共存する」という意味だそう。
アンリ・ジローはドサージュ（糖分の添加）を7g/Lで固定しています。
ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%で造られる、メゾンのエスプリを感じられるスタンダードなシャンパーニュです。
2018年に、シャンパーニュではな初めて残留農薬ゼロの表記を行い、話題となりました。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい
品種シャルドネ 20％
ドザージュHenri Giraud Hommage au Pinot Noir NV
オマージュ オー・ピノ・ノワール NV
アンリ・ジロー オマージュ・オー・ピノ・ノワールは、ピノ・ノワール100%で造られるブラン・ド・ノワール。
ピノ・ノワールは、収穫の時期になると果皮の粉が金色に見えることから、「金色の、金箔を貼った」という意味のある「プティ・ドレ（Petit dore）」とも呼ばれる品種。
そんなピノ・ノワールに敬意を込めて、オマージュ・オー・ピノ・ノワールと名付けられたそうです。
熟した黄色い果実や蜜のような香りと、スモーキーなニュアンスのあるシャンパーニュです。
希望小売価格：¥13,200（税込） / 1本（750ml）
味わい 品種
熟成期間 ドザージュHenri Giraud Blanc de Craie NV
ブラン・ド・クレ NV
ブラン・ド・クレの「Craie」は、フランス語でチョークという意味。
シャルドネ100%で造られるブラン・ド・ブランで、キレがよいフレッシュな酸味と石灰質土壌らしいミネラルの香りが特徴です。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい 品種 熟成期間 ドザージュHenri Giraud ROSE DAME-JANE NV
ロゼ ダム・ジャンヌ NV
ピノ・ノワール90%、シャルドネ10%で造られるロゼ・シャンパーニュ。
アイ村のピノ・ノワールで造られた赤ワイン陶器で作られた専用の容器（アンフォラ）で熟成させ、ブレンドしています。
アンリ・ジローの象徴とも言えるアイ村のピノ・ノワールを存分に楽しみたい方におすすめです。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい 品種シャルドネ 10%
熟成期間 ドザージュFUT DE CHENE COLLECTION（フュ・ド・シェーヌ コレクション）
フュ・ド・シェーヌは、アンリ・ジローを一躍有名にした、メゾンのフラッグシップとも言うべきコレクション。
FUT DE CHENE MULTI VINTAGE
フュ・ド・シェーヌ マルチ・ヴィンテージ
フュ・ド・シェーヌ マルチ・ヴィンテージは、アンリ・ジローが威信をかけて発表するプレスティージュ・キュヴェ。
ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%で造られます。
凝縮された複雑な香りが特徴的で、ボリュームのあるグラスで冷やしすぎずに愉しむのがおすすめです。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい 品種シャルドネ 20％
ドザージュFUT DE CHENE MULTI VINTAGE ROSE
フュ・ド・シェーヌ マルチ・ヴィンテージ ロゼ
フュ・ド・シェーヌ マルチ・ヴィンテージ ロゼは、フュ・ド・シェーヌ マルチ・ヴィンテージにアイ村のピノ・ノワールで造った赤ワインを6%から8%ブレンドして造られます。
赤色のフルーツやマンダリンオレンジを想わせる、凝縮感のある果実味が特徴のシャンパーニュです。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい 品種シャルドネ 20％
ドザージュHenri Giraud Argonne 2012
アルゴンヌ 2012
アルゴンヌは、アンリ・ジローの最高級キュヴェ。
2013年に最初のエディションが登場した際には、わずか8500本しかリリースされなかった本当に希少なシャンパーニュ。
2013年に発表された最初のヴィンテージ02年は8年間、最新のヴィンテージである2011年のものは6年間の瓶内熟成を経て出荷されています。
02年、04年、08年、11年に続き、12年は誕生から5番目のビンテージ。
ピノ・ノワールを90%、シャルドネを10%の比率でブレンドして造られるシャンパーニュです。
アルゴンヌの樫で造られる新樽100%で12ヶ月熟成させ、瓶に詰めてからも熟成を加えます。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい 品種シャルドネ 10%
ドザージュBLANC DE BLANCS 2012
ブラン・ド・ブラン 2012
ブラン・ド・ブランは、その名の通りシャルドネ100%で造られるシャンパーニュ。
アイ村の自社畑のシャルドネのみが使われています。
これまでに発売されているのは、90年、02年、04年、05年、11年の5ヴィンテージのみ。
すべてわずか数千本しかリリースされなかった、極めて希少なシャンパーニュです。
画像出典：※Instagram @champagnehenrigiraud さんより
味わい 品種 ドザージュCOTEAUX CHAMPENOIS COLLECTION（コトー・シャンプノワ コレクション）
コトー・シャンプノワコレクションは、シャンパーニュメゾンであるアンリ・ジローが造るスティルワインのコレクション。
アイ村のぶどうのみを使って造られます。
COTEAUX CHAMPENOIS BLANC 2014
コトー・シャンプノワ ブラン 2014
シャルドネ100%で造られる白ワイン。
アルゴンヌの樫で造られる新樽100%で熟成されます。
樽の香りがいきいきと感じられ、エレガントな果実味のある白ワインです。
画像出典：※Instagram @jay_park___ さんより
品種COTEAUX CHAMPENOIS ROUGE 2016
コトー・シャンプノワ ルージュ 2016
ピノ・ノワールの聖地アイ村で収穫されたピノ・ノワール100%で造られる赤ワイン。
エレガントで洗練された偉大な赤ワインです。
画像出典：※Instagram @champagne.apostle さんより
品種Henri Giraud Solera Ratafia de Champagne
ソレラ・ラタフィア・シャンプノワ
ぶどうの果汁にブランデーを加え造られる酒精強化ワイン（フォーティファイド・ワイン）。
ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%で、アルゴンヌの樫の小樽を使って熟成が行われます。
フォアグラや肉料理、デザートなどと相性がよく、非常にふくよかな香り。
10℃から15℃でいただくのが適温です。
画像出典：※Instagram @juel_lee さんより
品種シャルドネ 30%
最適な温度「幻のシャンパーニュ」に触れてみよう！
アンリ・ジローというメゾンの魅力の一端を感じていただけましたでしょうか。
幻と呼ばれるアンリ・ジローのシャンパーニュも、実は7,000円前後から試してみることができるというのは驚きですよね。
シャンパーニュメゾンで初めて残留農薬0の表記をしたことも話題になっているアンリ・ジロー。
オーガニック志向の方にも自信を持っておすすめできるメゾンです。
またひとつシャンパーニュの世界が拡がるきっかけとなりましたら幸いです。
「幻のシャンパーニュ」アンリ・ジローをぜひ楽しまれてみてください。
いちご大福
「マリアージュ」を研究するレストラン“レヴェランス”で生まれた、いちご大福の中にモエ・エ・シャンドンのジュレを忍ばせたレストランデザートです。
フレンチシェフの遊び心から生まれた、シャンパン好きなら楽しくてたまらなくなるような逸品です。Bon appétit !