シャンパーニュ界の「異端児」と呼ばれるアンセルム・セロス。
レコルタンの雄と名高いジャック・セロスの当主です。
彼が生み出したシャンパーニュは、これまでの伝統的なものとは一線を画す味わいでした。
ブルゴーニュの手法をシャンパーニュに持ち込み、独自の製法を突き詰めたことによるものです。
こうして生み出されたシャンパーニュは世界的に評価され、アンセルムは一気にカリスマ的地位まで昇り詰めました。
世界的な人気はとどまることを知らず、年を追うごとに価格も上昇し、入手困難に拍車がかかっています。
ここまで飲み手を魅了するジャック・セロスとは、どのようなシャンパーニュなのか？
この記事では、ジャック・セロスの基本に始まり、特徴的な製法、そして国内でリリースされている全10アイテムをご紹介いたします。
ジャック・セロス
ジャック・セロスの本拠地は、シャンパーニュ地方、コート・デ・ブラン地区の、アヴィズ村にあります。
現当主、アンセルムの父親であるジャック・セロスが、1949年に創業しました。
レコルタン・マニュピュランと呼ばれる、葡萄栽培から醸造、瓶詰めまでの全てを自社で行う生産者です。
フランスを代表するワインのバイヤーズ・ガイドである「レ・メイユール・ヴァン・ド・フランス」では、レコルタン・マニピュランとして最高の三ツ星を獲得した数少ない生産者でもあります。
アンセルムは、ブルゴーニュ地方、ボーヌの醸造学校で学び、ブルゴーニュの一流ドメーヌであるルフレーヴなどでワイン醸造の研修をした後、1974年にドメーヌに参画しました。
ジャック・セロスは、良質なシャルドネが生み出されるコート・デ・ブラン地区にアヴィズ、クラマン、オジェ、メニル・シュール・オジェの4つ畑、合計6.15haを所有します。
これらはすべてグラン・クリュ（特級）と呼ばれる最上の畑で、生産されるのはすべてシャルドネ。
ブドウ樹の平均樹齢は40年に達し、収穫は出来るだけ遅らせ、手摘みで一つずつ収穫していくのが特徴です。
また、ピノ・ノワールで有名なアンボネイ村に0.35haの畑を持ち、グラン・クリュのピノ・ノワールを実験的に少量生産しています。
異端と呼ばれる醸造スタイル
アンセルムは「異端児」と呼ばれる一方で、「カリスマ」とも形容されます。
というのも、アンセルムの取り組んだシャンパーニュ造りが、伝統的な手法からかけ離れたものであったのと同時に、革新的な味わいのシャンパーニュを生み出したからです。
アンセルムの取り組みを説明するうえで大切なポイントは、「ビオディナミ」、「ブルゴーニュの手法」、「ソレラ・システム」の3つ。
それでは、さっそく掘り下げていきましょう。
ビオディナミを実践
ドメーヌに参画後、アンセルムは次第に、シャンパーニュ造りには「テロワール」が重要だと考えに至り、ブドウの収穫量を抑えた有機栽培に関心を持ち始めます。
父親からドメーヌを引き継いだのを機に、彼は今までのシャンパーニュの慣習とは全く異なるやり方でシャンパーニュの生産を開始しました。
1996年からは、当時のシャンパーニュ地方では珍しいビオディナミ(有機自然農法)を採用。
アンセルムは、自然のままの土壌で、畑の個性を活かしたブドウ栽培を行い、ビオディナミを世界的に広める先駆者となりました。
※ビオディナミとは、化学的に合成された肥料、農薬や、除草剤を一切使わない栽培に加え、天体の運行に合わせ、自然物質を使った特別な調剤を用いて、自然の潜在能力を引き出す農法。
ブルゴーニュのスタイルを導入
アンセルムは、1986年頃からオーク樽での醸造を始め、1993年には全ての収穫した葡萄を228リットルのオーク樽で醸造するようになりました。
これはブルゴーニュのスタイルと同じで、最初にブドウ果汁を発酵させる際にオーク樽を使用し、更にこれを6か月間にわたり樽熟成させていく醸造方法です。
しかし、当時のシャンパーニュでは、このような醸造スタイルは一般的ではなく、「アンセルムの考え方や手法は前衛的すぎる」という声が上がるなど、周りの醸造家たちは理解に苦しんだであろうと伺えます。
そして、この手法で生み出されたシャンパーニュは、ブルゴーニュのトップ生産者の造るワインのような強烈なオークの香りと樽熟成に由来する酸化のニュアンスがみられる新しい味わいのものでした。
案の定、伝統的な生産者からは「シャンパーニュらしさがない」と非難されることも多々あったようです。
しかしながら、アメリカのジャーナリストらの間では「スパークリング・コルトン・シャルルマーニュ」と激賞され、アンセルムは革新的な醸造家として高く評価されていきます。
こうした評価は、アンセルムの「よいシャンパーニュは、よいワインからしか生まれない」という言葉を裏付けるものでした。
※コルトン・シャルルマーニュとは、ブルゴーニュ地方で生産される最高峰の白ワインの一つ。
独自のソレラ・システム
アンセルムは、独自のソレラ・システムを導入しています。
そもそもソレラ・システムと、シェリー酒を造る際に用いられる手法で、ピラミッド状に積み上げた樽の最上段からワインを継ぎ足していき、一番下の樽からワインを抽出していきます。
これにより、年によるワインの味わいのムラを無くし、安定した品質のワインを造り出すことがで切るのです。
ジャック・セロスのソレラには、1984年収穫からのワインが入っており、深い熟成感を伴った原酒を生み出す源になっています。
このシステムは、主に「シュプスタンス」というキュヴェに用いられ、熱狂的なファンを生み出しました。
ジャック・セロス｜全10アイテムをご紹介
ここからは、現在国内で販売されているジャック・セロスの全10アイテムをご紹介いたします。
基本となる6アイテムに加え、リュー・ディ（単一畑）と呼ばれる各畑のテロワールに焦点を当てた非常に希少なシリーズもございます。
年間の生産本数は、約58,000本と非常に限られますので、すぐに完売してしまうのもうなずけます。
※非常に数が限られるため、完売の際はご了承ください。
ジャック・セロスのスタンダード・キュヴェ
Initial Brut NV
イニシャル ブリュット NV
品種：シャルドネ100％
ジャックセロスのスタンダードNVシャンパン。
平均樹齢40年のアヴィーズ、クラマン、オジェの3つの畑から収穫したシャルドネを使用したブラン・ド・ブラン。
ドサージュ・ゼロの極辛口
Version Original Extra Brut NV
ヴァージョン・オリジナル エクストラ・ブリュット NV
品種：シャルドネ100％
ドサージュはゼロ。
アヴィーズ、クラマン、オジェの3つ畑で造られたワインをブレンド。
アンセルムの求める味わい追及した結果、ヴァージョン・オリジナルはクラマンの比率が高く、また、それぞれの地区の斜面の区画で収穫されたワインが主に使用されています。
ジャック・セロスのフラッグシップ
Substance Brut NV
シュプスタンス ブリュット NV
品種：シャルドネ100％
最高の原料ワインを産みだすアヴィーズ産のシャルドネを、ジャックセロス独自のソレラで熟成しボトリング。
Substance（本質）と名付けられた、ジャックセロスのフラッグシップ的シャンパーニュです。
オレンジがかった美しいロゼ
Rose Brut NV
ロゼ ブリュット NV
品種：シャルドネ93％ / ピノ・ノワール7％
アンボネイのトップ生産者エグリ・ウーリエの赤ワインをブレンドしていましたが、新たに自社畑を持ち、赤ワインの自社調達が可能となりました。
ドサージュ：2～3.3ｇ/L
ジャック・セロス唯一の甘口
Cuvee Exquise Sec NV
キュヴェ・エクスキーズ セック NV
品種：シャルドネ100％
ジャックセロス唯一のセック。
イニシャルと同じ作りですが、比較的若くフレッシュな原酒をアッサンブラージュしています。
希少なヴィンテージ
Millesime Extra Brut
ミレジム エクストラ・ブリュット
品種：シャルドネ / ピノ・ノワール
従来のアヴィーズ2区画のシャルドネ種のミレジムから一新。
全工程の決定権を任された息子ギョームの着想で、グラン・クリュのピノ・ノワールとシャルドネのブレンドに生まれ変わりました。
多彩な果実味と充実したミネラル感
Lieux-Dits Ay La Cote Faron Extra Brut NV
リュー・ディ アイ ラ・コート・ファロン エクストラ・ブリュット NV
品種：ピノ・ノワール100％
アイ村のリュー・ディ（単一畑）、”ラ・コート・ファロン”で収穫されたピノ・ノワールで造られるブラン・ド・ノワール。
発売当初は、2003年を主体に2004年、2005年がブレンドして造られました。
その後、独自のソレラをこのキュヴェでも使用して、ヴィンテージの差異を超えた畑の味わいを表現しています。
ドサージュ：2ｇ/L
最上のシャルドネ
Lieux-Dits Mesnil sur Oger Les Carelles Extra Brut NV
リュー・ディ メニル・シュール・オジェ レ・キャレル エクストラ・ブリュット NV
品種：シャルドネ100％
クリュッグのクロ・デ・メニルでも有名なコート・デ・ブランのメニル・シュール・オジェ村の単一畑”レ・キャレル”のシャルドネ100％で造られたブラン・ド・ブラン。
ドサージュ：1.3ｇ/L
硬質なミネラルと鋭い酸味
Lieux-Dits Ambonnay Le Bout du Clos Extra Brut NV
リュー・ディ アンボネイ ル・ブー・デュ・クロ エクストラ・ブリュット NV
品種：ピノ・ノワール100％
アンボネイ村のピノ・ノワール100%で仕込まれるブラン・ド・ノワール。
ビオディナミで栽培された葡萄の濃縮果汁をドサージュに使用しています。
ドサージュ：2ｇ/L
わずか0.4haから生まれる希少品
Lieux-Dits Mareuil sur Ay Sous le Mont Extra Brut NV
リュー・ディ マルイユ・シュール・アイ スー・ル・モン エクストラ・ブリュット NV
品種：ピノ・ノワール100％
マルイユ・シュール・アイ村の東向き斜面にある0.4haの単一畑“スー・ル・モン”で収穫されたピノ・ノワールを100％使用したブラン・ド・ノワール。
ドサージュ：0ｇ/L
アンセルム・セロスの哲学や醸造スタイル、彼の生産するシャンパーニュをを見てまいりましたが、いかがでしたでしょうか？
世界的な人気に加え、生産量もごく限られたジャック・セロス。
アンセルムの世界に触れてみたいと思う方は、ぜひ一度トライしてみてください。