モエ・エ・シャンドンと並び、世界でもっとも有名なシャンパーニュメゾン(メーカー)と言っても過言ではないヴーヴ・クリコ。
黄色いラベルが特徴的で、「あのシャンパーニュ!」と見覚えのある方も多いかと思います。
「ヴーヴ」とは、フランス語で「未亡人」を意味します。
メゾンの名前を「未亡人クリコ」と名付けたのは、夫の急逝により若くして経営を引き継いだマダム・クリコ本人。
女性の活躍の場が非常に限られていた19世紀初頭、彼女は挑戦に満ちた人生を歩むことになります。
この記事では、まずマダム・クリコの軌跡をざっくりと辿りながら、ヴーヴ・クリコが世界的なシャンパーニュメゾンへと成長する過程を見ていきます。
そして、彼女の功績やこのメゾンの特徴を語るうえで欠かすことのできないシャンパーニュ4種を、ソムリエの視点でピックアップし、味わいや楽しむポイントも交えながら詳しく解説。
この4種類が分かれば、ヴーヴ・クリコの特徴や味わいを一気に理解できますよ。
締めくくりに、残りのラインナップを特徴を踏まえながら簡単にご紹介してまいりますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
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ヴーヴ・クリコとは?
画像出典:※Instagram @veuveclicquot さんより
ヴーヴ・クリコは、1772年創業のシャンパーニュメゾン。
現在の正式名称は、ヴーヴ・クリコ・ポンサルダンですが、当時は「クリコ」の名で、ロシアを中心とした海外市場へシャンパーニュを輸出していました。
後のマダム・クリコとなるバルブ=ニコル・ポンサルダンは、創業者であるフィリップ・クリコの息子フランソワと結婚しましたが、わずか6年後に彼が急逝。
未亡人(ヴーヴ)となったマダム・クリコは、若干27歳の若さでしたが、亡き夫の遺志と情熱とともにメゾンの経営を引き継ぐことに。
女性の社会進出が、現在とは比べ物にならないほど進んでいなかった時代に、彼女は女性初のシャンパーニュメゾンの経営者となったのです。
しかし、事業を継いだ1805年当時は、戦争などの影響により嗜好品は敬遠され、加えて最大の顧客であったロシアがフランスからの輸入を禁止していたため、経営は困難を極めました。
なんとか厳しい状況を凌いだマダム・クリコは、ロシア側の規制が緩和された1814年に輸出を敢行し、結果大成功を収めることに。
ヨーロッパの情勢が安定しない中、リスクを承知でロシアへの輸出に踏み切ったマダム・クリコの決断力は、優れた経営者としての資質を表しています。
その後、売上は爆発的に伸び、世界的なシャンパーニュメゾンへと発展する足掛かりとなったのです。
困難に直面しながらもマダム・クリコを突き動かしたのは、現在でもメゾンのコンセプトとして受け継がれている「品質はただひとつ、最高級だけ」という信念でした。
【稀代の女性経営者】
マダム・クリコの3つの功績
画像出典:※Instagram @veuveclicquot さんより
類まれな経営センスを持っていたマダム・クリコですが、シャンパーニュを造る技術面でも才能をいかんなく発揮し、シャンパーニュの歴史に残る大きな功績を3つ残しました。
その功績とは、
✓ヴィンテージ・シャンパーニュの発明
✓動瓶台(ピュピトル)の発明
✓赤ワインのブレンドによるロゼ・シャンパーニュの発明
これら3つの発明をはじめ、シャンパーニュの発展に大きく貢献したマダム・クリコは、いつしか同業者の間で「ラ・グランダム」(偉大なる女性)と呼ばれるように。
それでは、マダム・クリコの残した功績を詳しく見ていきましょう。
初のヴィンテージ・シャンパーニュを造る
マダム・クリコの最初の功績は、シャンパーニュで初めてとなるヴィンテージ・シャンパーニュを造ったことでした。
通常シャンパーニュは、リザーヴワインと呼ばれるストックしておいた複数のヴィンテージ(収穫年)のワインをブレンド(=アッサンブラージュ)して造り、品質のバラつきをなくしたNV(ノンヴィンテージ)というものでリリースするのが一般的です。
いっぽう、単一のヴィンテージから製造する場合は、とても高品質なブドウが必要となるため、栽培や醸造の技術が発展途上だった当時を考えると非常に大胆な試みと言えます。
記念すべき最初のヴィンテージは1810年。
その後輸入を再開したロシアでも大好評を博し、ヴーヴ・クリコの知名度と人気を一気に高める起爆剤となりました。
また、ヴィンテージ・シャンパーニュの誕生が、メゾンの経営を引き継いでからわずか5年後のことと考えると、いかにマダム・クリコが革新的で、時代の先を見通す目を持った経営者であったかが分かります。
ちなみに、この年(1810年)にメゾンの名称は、「ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン」へと変更されました。
動瓶台(ピュピトル)の発明
続いてご紹介するのは、動瓶(ルミアージュ)とピュピトルと呼ばれる動瓶台の発明でした。
動瓶(ルミアージュ)とは、シャンパーニュが瓶の中で熟成する過程で発生する、澱(オリ)と呼ばれる沈殿物を一ヵ所に集める工程のこと。
穴の開いた台(ピュピトル)に逆さまにしたボトルを刺し、徐々に角度をつけながら、少しずつ回転させて澱をボトルの口の部分に集め、その後取り除きます。
マダム・クリコがこの発明をしたのは1816年。
それまでのシャンパーニュは、澱が混ざってしまい濁ったものが普通でしたが、これ以降、シャンパーニュはクリスタルのように透明なものへと生まれ変わりました。
現在では、この工程はほぼ全自動化されていますが、ごく一部の高級シャンパーニュでは、いまだに人の手によって行われています。
赤ワインのブレンドによる
初めてのロゼ・シャンパーニュ
そして最後の功績は、赤ワインのブレンド(=アッサンブラージュ)による初のロゼ・シャンパーニュを造ったことです。
当時、ロゼ・シャンパーニュを造るときは、ニワトコと呼ばれる、酸味の強い小さな果実を用いてシャンパーニュに着色していました。
しかし、妥協を知らないマダム・クリコはこの方法に満足せず、上質な赤ワインをブレンドすることで、今までにない色鮮やかで味わい深いロゼ・シャンパーニュを造り出しました。
かつて彼女は、「私たちのワインは口当たりだけではなく、見た目もおしゃれでなければならない」と言ったそうで、それまでの常識や習慣にとらわれずに、自らの理想を実現しようとする信念が、新たな方法を誕生させたのです。
1818年に生み出されたこの手法は、ブレンド(アッサンブラージュ)製法と呼ばれ、現在でもロゼ・シャンパーニュの主要な製法の一つとして受け継がれています。
【ソムリエ厳選】
この4本でヴーヴ・クリコが”まるわかり”
シャンパーニュにはいろいろなラインナップがあり、どれからトライしていいかわからないと思っている方も多いはず。
そこでここからは、”これを知って飲めば”、ヴーヴ・クリコの特徴を一発で理解できるというアイテムを4種類ご紹介してまいります。
また、ソムリエ視点で特徴や味わい、そして楽しむポイントを踏まえながら詳しく解説していきますので、さっそく見ていきましょう。
【メゾンを知るならまずはこの1本】
イエローラベル ブリュット NV
Yellow Label Brut NV
ムニエ 15 – 20%
シャルドネ 28 – 33%
リザーブワイン 30 – 45%
ヴーヴ・クリコのラインナップの中でもっともスタンダードであり、このメゾンのアイコンともいえるのが、このイエローラベル ブリュット。
「クリコ・イエロー」と呼ばれるメゾンを象徴するヴィヴィッドなカラーが印象的で、マダム・クリコの生誕100年の1877年に商標登録もされています。
50~60のも異なる畑から収穫されたブドウを使用した豊富なリザーヴワインをブレンドしたこのシャンパーニュは、メゾンの根幹にある「品質はただひとつ、最高級だけ」というコンセプトを見事に表した1本です。
ピノ・ノワールが主体で、瓶内熟成も最低3年間行っているので、しっかりとした骨格。
そして、シャルドネのエレガントな酸味がシャンパーニュに気品を、ムニエがまろやかさを与えています。
ラインナップの基本となるシャンパーニュらしく、アロマ、果実味、そして酸味のバランスが見事に整った、非常に高いレベルの味わい。
和食との相性も良く、週末に自宅で楽しむ際にも重宝します。
この1本を飲めば、ヴーヴ・クリコの特徴や世界観、そして「品質はただひとつ、最高級だけ」というメゾンの哲学が理解できるでしょう。
【200年前から受け継がれる製法】
ローズラベル NV
Rose Label NV
ムニエ 13 – 18%
シャルドネ 25 – 29%
リザーブワイン 30 – 45%
赤ワイン 12%
マダム・クリコが生み出したブレンド製法による初めてのロゼ・シャンパーニュをルーツに持つ、ローズラベル。
イエローラベルと同じように、「広く愛されるノンヴィンテージ・ロゼ」というコンセプトのもと、200年前と変わらぬ製法を守りつつ新たにラインナップに登場。
2004年に世界に先駆けて日本で先行発売された際には、大きな反響を呼び話題となりました。
イエローラベルをベースに、シャンパーニュ地方でも最高品質とされる赤ワインをブレンドして造られ、フルボディのワインのようなボリューム感と余韻が楽しめます。
フレッシュな赤いベリー系のアロマが豊かで、徐々にドライフルーツなどのニュアンスも。
合わせる料理のジャンルは幅広く、フレンチやイタリアンに加え、スパイスやハーブをふんだんに使用した中華やエスニックなどのオリエンタルな料理との相性も抜群です。
【ヴィンテージ・シャンパーニュの元祖】
ヴィンテージ 2012
Vintage 2012
ムニエ 15%
シャルドネ 34%
シャンパーニュにおいて初めてとなるヴィンテージ・シャンパーニュを生み出したのが、ヴーヴ・クリコ。
特別な年のみ生産され、今回ご紹介する2012年は、最初のリリースから数えて66番目のヴィンテージです。
50%を超える比率でブレンドされている高品質なピノ・ノワールが、ヴーヴ・クリコらしい芳醇さを醸し出し、エレガントなシャルドネの酸味が全体をうまくまとめています。
このヴィンテージでは、フードルと呼ばれる木の大樽で熟成されたワインが加えられており、より円熟味のある深い味わいを形成。
また、柑橘類のコンポートに加え、樽由来の香ばしさやバニラのフレーバーも感じられ、重層的な香りを楽しめます。
仔牛、魚やホタテのソテーなど、あまり重すぎないソースをあわせたメインに。
【マダム・クリコへ捧げるオマージュ】
ラ・グランダム 2012
La Grande Dame 2012
シャルドネ 10%
ヴーヴ・クリコが誇る最高ランクのシャンパーニュであり、偉大なる女性と呼ばれたマダム・クリコへのオマージュとしてその名を冠した、ラ・グランダム。
メゾン創立200年周年を記念し、1972年にリリースされました。
マダム・クリコが自ら買い付けた8つの特級畑のブドウのみを使用し、重厚ながら非常に繊細なアロマを兼ね備えたヴーヴ・クリコのフラッグシップといえる味わい。
卓越したピノ・ノワールが惜しみなくブレンドされており、長期の熟成にも耐えられるポテンシャルを秘めています。
最新の2012年は、直近のヴィンテージの中でも優れた年の一つで、リンゴや洋ナシ、ピーチといったフレッシュなアロマに続き、ドライフルーツやヘーゼルナッツといった少し熟成したニュアンスが魅力。
和・洋問わず、コース料理をこの1本で通して楽しめるほどの高い完成度の1本です。
【ヴーヴ・クリコを制覇】
その他全ラインナップをご紹介
最後に、現在ヴーヴ・クリコが展開する残りの全ラインナップを、特徴を踏まえながら簡単にご紹介してまいります。
甘口タイプにはじまり、特別なヴィンテージ、そして氷を入れて楽しむ新しいスタイルのシャンパーニュまで。
知っているだけで、レストランやワインショップでのソムリエとの会話も弾みますし、ワイン好きからも一目置かれるでしょう。
【スイーツと合わせたい甘口タイプ】
ホワイトラベル ドゥミ・セック NV
White Label Demi-Sec NV
こちらもイエローラベルをベースとし、約50種類ものワインをブレンドして造られます。
1リットルあたり45gの甘味が加えられていますが、ピノ・ノワールやムニエの果実味と、シャルドネの酸味がうまくバランスを保っており、あまり重たさを感じさせない甘さに仕上がっています。
ピーチなどのフレッシュフルーツやケーキに加え、塩気のあるブルーチーズとの相性も抜群です。
【唯一無二の熟成感を味わえる】
エクストラ・ブリュット
エクストラ・オールド 2 NV
Extra Brut Extra Old 2 NV
卓越した1990年、1998年、1999年、2006年、2008年、そして2012年の8つのヴィンテージがブレンドされ、類を見ない熟成感と複雑な風味が魅力です。
メインの魚・肉やフォアグラなどの重厚な味わいのもの、熟成したチーズがおすすめ。
【華やかなアロマと熟成感が魅力】
ヴィンテージ・ロゼ 2012
Vintage Rose 2012
たっぷりとしたボリューム感と少し熟したベリーのアロマが豊かで、期待を裏切らない味わいです。
ローズラベル同様、合わせる料理はフレンチから中華まで幅広いですが、より重厚感のあるソースや味付けのものもしっかりと受け止めます。
【特別なシーンで開けたい最高峰のロゼ】
ラ・グランダム・ロゼ 2008
La Grande Dame Rose 2008
ヴーヴ・クリコの所有する畑の中でももっとも歴史的とされる「クロ・コラン」と呼ばれる区画のピノ・ノワールから造られる赤ワインがブレンドされています。
淡いピンクゴールドの優雅な色調で、赤いベリーやルイボスの香りに、ほのかなスパイスのニュアンス。
長期熟成を経たきめ細かな泡とともに、舌の上でしっかりとした余韻を楽しめます。
レアに火入れした牛や仔羊、オマール海老などの甲殻類と合わせるのがベスト。
【シャンパーニュ×氷×食材】
リッチ NV
Rich NV
ミックスするのが前提なので、1リットルあたり60gの甘味を加えて極甘口に仕上げています。
混ぜ合わせる食材は、カットやピールしたグレープフルーツやパイナップルなどのフルーツや、薄くスライスしたセロリやキュウリなどの野菜。
これまでに体験したことのないフレーバーに出合うことができます。
【鮮やかなロゼでオリジナルカクテルを】
リッチ・ロゼ NV
Rich Rose NV
同様にフルーツや野菜との相性も良いですが、よりベリー系のアロマが豊かなので、ジンジャーなどのスパイスのニュアンスのあるものや、ライムといった清涼感のある柑橘類をミックスすると、甘さにアクセントをつけることができるのでおすすめです。
ぜひ、あなただけのオリジナルのレシピを見つけてお楽しみください。
読んで知る・飲んで知るヴーヴ・クリコ
マダム・クリコの半生にはじまり、ヴーヴ・クリコを知るための4本、そして残りのラインナップまでを見てまいりました。
250年前に誕生したメゾンを世界的なシャンパーニュメゾンと発展させたマダム・クリコの情熱が、現在でもしっかりと受け継がれており、ヴーヴ・クリコを飲む私たちを魅了し続けています。
エピソードを知って飲むシャンパーニュは、より味わい深いもの。
この記事を読み終えたみなさんには、ぜひ奥深いヴーヴ・クリコの世界を体験していただきたいと思います。