スマートな身のこなしで、レストランのダイニングを颯爽と歩く「ワインの専門家」。
ソムリエという言葉を聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは、このようなイメージではないでしょうか。
ワインに興味があれば、彼らがどのような仕事をしているのか、どうやったらソムリエになれるのか、といった疑問も抱かれるかと思います。
最初にご説明したいのが、ソムリエというのは、「職業」であり「資格」でもあるのです。
ソムリエという言葉は、イメージがあいまいなまま浸透してしまっていますが、これら2つの意味を持ちます。
この記事では、まずソムリエを「職業」と「資格」の2つの面から見ていき、仕事内容やどのような資格なのかを解説。
そして、ソムリエ資格の試験内容や、合格のためにはどのような勉強が必要かを詳しく紹介し、試験突破までのイメージを提示します。
最後に、ソムリエ資格を取得したプロフェショナルレベルの方でもなかなか体験したことがないような、ワインの古酒(20~30年熟成したもの)に特化したレストランをご紹介。
さらに奥深いワインの世界に踏み入るきっかけになる1軒ですので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
そもそもソムリエとは?
画像出典:※Instagram 公式アカウント @robuchon_tokyo さんより
最初に、ソムリエには「職業」と「資格」の二つの意味があるとご説明しました。
まずここでは、「職業」としてのソムリエについて、その仕事内容も含め掘り下げたいと思います。
ソムリエ(フランス語:sommelier)とは、レストランをはじめとする飲食店での、ワインを中心とした飲料全般のサービスを行うスタッフのことです。
後ほどご説明する「ソムリエ資格」の有無に関わらず、この業務に携わる人をソムリエと呼びます。
ワインはもとより、料理全般の専門知識をもったプロフェショナルですので、ゲストの料理や要望に合わせたワイン選びをお手伝いする役割も業務のひとつ。
ワインを通して、来店されたお客様に最高の料理と空間、時間をを楽しんでいただくためのサポート役と考えていただくとわかりやすいでしょう。
その他には、ワインの仕入れ、ワインリストの作成や在庫管理など、その仕事内容は多岐にわたります。
また、ソムリエ・コンクールなどで優勝や入賞し活躍されたソムリエは、レストランでの仕事以外にも、講演やセミナーといった活動や、飲食店のコンサルティングを手掛けるなど、近年は活躍の幅をどんどん広げています。
※女性の場合は、フランス語の女性名詞であるソムリエール(sommeliere)と呼びます。
どちらがいい?ソムリエ認定団体は2つ
続いて、「資格」としてのソムリエを見ていきましょう。
現在、国内にはソムリエ資格の認定を行っている民間団体が2つあります。
日本ソムリエ協会(J.S.A.)と全日本ソムリエ連盟(ANSA)という団体で、それぞれ独自の試験を実施しソムリエ資格の認定を行っています。
【圧倒的な認知度】
日本ソムリエ協会(J.S.A.)
認定資格「ソムリエ」
日本ソムリエ協会(J.S.A.)とは、1969年に発足した「飲料販売促進研究会」を前身とする団体。
1976年に現在の日本ソムリエ協会に改称し、1985年からソムリエ資格の認定を行っています。
1986年には国際ソムリエ協会に加盟し、当時としては日本で唯一のソムリエ資格を運営する団体となりました。
ソムリエ資格の受験に当たっては、下記の条件をクリアしている必要があります。
◆以下の職務を通算3年以上経験し、第一次試験時においても従事している方
✓酒類・飲料を提供する飲食サービス
✓酒類・飲料の仕入れ、管理、輸出入、流通、販売、製造、教育機関講師
✓酒類・飲料を取り扱うコンサルタント業務
※協会の会員歴が2年以上あり、上記の職務を通算2年以上経験し、第一次試験時においても従事しているJ.S.A.正会員および賛助会員所属者も受験資格があります。
従事年数が3年未満の場合は、同協会がワイン愛好家向けに認定を行っている、ワインエキスパート(※)という資格を取得するのも1つの手です。
レベルはソムリエ資格と同等、または準ずるものと認められており、ワインの専門家として活動するのに支障はありません。
※ワインエキスパートの詳細についてはこちら
【一般の方も受験可】
全日本ソムリエ連盟(ANSA)
認定資格「ソムリエ」
全日本ソムリエ連盟(ANSA)とは、1997年に設立されたNPO法人料飲専門家団体連合会に属する組織の1つ。
受験資格は申し込み時点で満20歳以上であることだけなので、日本ソムリエ協会の受験資格がない場合は、こちらの資格を検討しても良いかもしれません。
試験合格後、名乗れるのは、「ソムリエ」もしくは「ワインコーディネーター」のどちらかの名称。
受験時に選択しますが、飲食店勤務の方は前者を、酒販店や百貨店などに勤務の方は後者を選ぶことが多いそうです。
全日本ソムリエ連盟は、日本ソムリエ協会よりも歴史は浅く、資格の知名度でも見てもメジャーとは言えません。
ワイン業界での認知度を考慮すると、ソムリエの資格取得を目指す場合には、日本ソムリエ協会(J.S.A.)の方を受験することをお勧めします。
【プロフェショナルの証】
資格取得のメリット
画像出典:※Instagram 公式アカウント @academieduvintokyo さんより
ソムリエ資格は、医師や弁護士のように取得していないと活動できない資格ではなく、資格を取得していなくてもワインの仕事に携わることはできます。
しかし、グラン・メゾンと呼ばれるれる一流レストランは言うに及ばず、一定以上のレベルのレストランでソムリエとして働きたくても、資格がないとまず就職できません。
資格がない場合は、一般のサービススタッフとして就職し通常の業務をこなしつつ、試験合格後に初めてソムリエ業務を行える、という流れが一般的。
つまりソムリエ資格の取得は、世界中のワインについて精通しており、ワインを正しく評価できるテイスティング能力があるという証明になり、キャリアの面でとても有利に働きます。
また、試験勉強で身につけた知識や経験から、顧客との信頼関係も築きやすくなりますし、業務のクオリティ向上や売上増進も見込めるでしょう。
もし、ワインショップやワインの輸入業者へ転職する場合も、ソムリエ資格は大きなアピールポイントとなります。
資格取得には、たくさんの時間と努力が必要となりますが、ソムリエという仕事でキャリアを積み上げていくには、避けては通れない必須のステップだと考えましょう。
【合格への近道】
試験内容を知る
ソムリエ試験は筆記の一次試験、ワイン・テイスティングの二次試験、そしてサービス実技の三次試験の三段階で構成され、各試験を順に突破していく必要があります。
資格取得の第一歩は、各試験の内容や傾向を正しく理解すること。
こうすることで、勉強する内容や目的が明確になり、効率もモチベーションもアップします。
それでは、各試験について解説してまいります。
【正確性とスピードがカギ】
一次試験(筆記)
画像出典:※Instagram 公式アカウント @academieduvintokyo さんより
現在の一次試験は、コンピューターを使用したCBT方式の試験で、選択肢から正解を選ぶ択一方式。
試験時間70分で120問に回答しなければならない、時間的に非常にタイトなタイムスケジュールです。
試験内容は、受験者に送付される「日本ソムリエ協会教本」という800ページを超えるテキストから出題。
世界のワインや産地に始まり、栽培や醸造、料理、仕入れや在庫管理など、広大な範囲の知識習得が必要となる試験です。
例年の一次試験の合格率は50パーセント未満で、非常に難易度の高い試験なので、しっかとりとた準備・対策をしましょう。
【客観性が重要】
二次試験(テイスティング)
画像出典:※Instagram 公式アカウント @academieduvintokyo さんより
二次試験では、スティルワイン(発砲していないワイン)3種、スティルワイン以外のアルコール飲料(ブランデーや焼酎など)2種を、銘柄がわからない状態(=ブラインド)でテイスティングして、その特徴などを回答します。
スティルワイン3種については外観、香り、味わいについて語群の中から選んでコメントを作成し、生産国、主要ブドウ品種、ヴィンテージなどについても選択肢の中から選び回答するスタイル。
スティルワイン以外のアルコール飲料については、銘柄名を選択肢から回答するのみです。
香りや色調はとても主観的なものと思われがちですが、これらの要素はソムリエにとっての共通言語なので、しっかりと自分の中に基準を作り、客観的に判断することが求められます。
また、テイスティングに加え、ワインの時事的なトピックや、料理との相性やその理由を述べたりする、論述形式の問題も3題出題されます。
(ただし、この論述の採点結果は、次の三次試験の合否判定に併せて用いられます)。
【ソムリエまであと一歩】
三次試験(サービス実技)
最後の三次試験は、サービス実技です。
実際に、ゲストに見立てた審査員に対して、ワインのサービスを行います。
パニエ(ワインを寝かせて置く籠)に入れた状態のワインを抜栓し、デキャンター(ガラスの容器)に移し替えて、ゲストにサービスする一連の流れが審査されます。
【1年でも合格可能】
資格取得までの道のり
ソムリエ試験の直近3年間(2019~2021年)の最終的な合格率は、36.6%。
以前と比べるとやや高い傾向ですが、それでも4人に1人も合格しない難関です。
覚えることが膨大で根気のいる勉強が大半を占めますが、頑張れば1年程度でも試験突破は可能です。
【最初で最大の関門】
広く細かい知識が問われる一次試験
ソムリエ試験の最初の試験であり、もっとも難関とされる一次試験。
最近では、かなり細かい知識を問う問題も散見され、ヤマを張るような勉強法では太刀打ちできません。
上述の通り、世界のワインの膨大な情報量を効率よく吸収し、試験対策を行う必要があります。
通常、ワインスクールで開講される試験対策の講座は、夏(7月~8月)に開催される試験のおよそ6ヶ月前に開講されますので、この期間に集中して準備する方法もあります。
独学も不可能ではありませんが、効率やモチベーション維持の点から見ても、スクールを活用する方がおすすめです。
特に頻出のフランスやイタリアをはじめとしたヨーロッパの分野に重点を置き、最初の3ヶ月~6ヶ月程度でベースとなる知識を固めましょう。
また、過去問や問題集の演習は知識の定着に必須と言えますので、並行して取り組むことをおすすめします。
【反復と継続が大切】
外観・香り・味わいを言葉で表す二次試験
9月に実施される二次試験のテイスティングは、主観的・直感的な要素が多そうに感じられますが、客観的な分析力がポイント。
試験では、外観、香り、味わいを問われますので、ブドウ品種や産地ごとの特徴を理解し、適切な言葉をピックアップできることが必要です。
ワインスクールの講座やセミナーですと、講義とあわせて複数のワインを比較しながらテイスティングできるので、効率よく経験を積むことができます。
最初のうちは分からなかったり、間違えたりすることの方が多いかもしれませんが、根気強く繰り返し、継続することがテイスティング能力を身につける近道です。
一次試験から二次試験までは、通常1ヶ月以上の期間があり、多くのワインスクールでテイスティング対策のスポット講座が開催されています。
試験に向けての最終確認としては十分な時間がありますから、講座やセミナーなどに参加して万全を期しましょう。
【一連の流れを身につける】
実際にワインをサービスする三次試験
いよいよ最後の審査である11月実施の三次試験は、サービス実技。
この試験だけの合格率を見れば90%程度と、ほとんどの方が突破しているので、しっかりと準備すればまず問題はないでしょう。
ワインの抜栓からデキャンタージュ、ゲストへワインを注ぐまでのサービスを審査されますが、一連の流れを頭と体に覚えさせるのが大切です。
二次試験~三次試験までは約1ヶ月ありますので、ワインをパニエにセットした状態での抜栓、デキャンタージュの練習をしっかり行えます。
テイスティングと同様、サービス実技対策の講座も開講されていますし、最近ではyoutubeでも多くの方が、三次試験対策用の動画をアップされていますので、うまく活用されるとよいでしょう。
ソムリエ資格取得でより深まる
ワインの理解
「職業」と「資格」の2つの面からソムリエについて解説し、資格試験の内容から合格までの道のりまでを見てまいりました。
資格取得のためには、地道な暗記やテイスティングの繰り返しなど、多くの時間と労力を必要としますが、キャリアの面で考えれば就職や転職での強い武器となりますので、ソムリエ資格を目指す方には、ぜひ合格を手にしていただきたいです。
加えて、試験を突破した後には、今まで見えていなかった景色が待っていると思います。
ワインの香りや味わいの感じ方は、勉強を始める前と後では劇的に変化し、ワインの楽しみ方の幅も深さも以前とは比較にならないほど変わることでしょう。
最後に、知識もテイスティング能力もプロフェショナルの域に達した方に、ご紹介したいのが「ワインが主役」とテーマにしたレストラン、レヴェランス R(アール)。
ワインの古酒(20~30年熟成したもの)をメインに扱い、他のお店では出会えないような貴重なワインを豊富に取り揃えています。
熟成ワインで一歩進んだ
テイスティングを体験
レヴェランス R(アール)
画像出典:※Instagram 公式アカウント @reverence_r_ さんより
銀座・並木通り沿いに佇む、レヴェランス R(アール)。
こちらは、ブルゴーニュとシャンパーニュの古酒(20~30年熟成したもの)に特化したレストラン。
長期の熟成を経たワインは、時間と共に香りも味わいも変化し、合わせる料理によっても異なる表情をを見せてくれます。
レヴェランス Rは、極上の状態で保管・熟成されたトップクラスのワインと料理の究極のマリアージュを体験できる稀有な空間。
ワインを突き詰めたい、知的好奇心溢れる方にも十分満足いただけるレストランです。
ミニコラム
世界最難関のワイン資格
マスター・オブ・ワイン
この記事では、国内のソムリエの資格について触れてきましたが、もちろんフランスやイタリアをはじめとたいろいろな国で独自にソムリエ資格の認定を行っています。
こちらでは、ワイン業界で最難関とされる、「マスター・オブ・ワイン」という資格についてご紹介いたします。
マスター・オブ・ワインの取得者は全世界でもまだ418名(2021年2月)ほどで、そのうち日本人合格者はまだ2名しか誕生していません。
なぜ最難関かというと、まず受験資格として、イギリスのワイン教育機関が主催するWSETと呼ばれる資格のもっとも難しい「WSET Level 4 Diploma」の取得が必須となります。
その後、マスター・オブ・ワイン協会の2年にわたるスタディ・プログラムへ参加し、理論(筆記)部門とテイスティング部門の試験を受験。
これに合格後、待ち受ける1万語以上の論文試験を突破すれば、晴れてマスター・オブ・ワイン(MW)を名乗ることができます。
挑戦から資格取得まで、途方もない時間と努力が必要と言われ、世界最難関の名にふさわしい試験内容となっています。
ご興味のある方は、こちらのマスター・オブ・ワイン協会の公式HPで詳細をご確認ください。